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鹿児島家庭裁判所 昭和57年(家ロ)501号 審判

申立人 吉田元子

相手方 吉田正夫

主文

相手方は申立人に対し、昭和五七年三月から本案審判(当庁昭和五六年(家)第一二三二号婚姻費用分担申立事件)の確定に至るまで婚姻費用分担金の一部として毎月末日限り一ヶ月金二九万円の割合による金員を申立人方へ持参又は送金して支払え。

理由

一  申立人は相手方に対し、婚姻費用の分担を求める調停(当庁昭和五六年(家イ)第二九五号)を申立てたが、調停不成立となり、家事審判法二六条一項により、審判の申立があつたものとみなされた(当庁昭和五六年(家)第一二三二号婚姻費用分担申立事件)。そこで、申立人は、さらに、右審判事件を本案審判として、本件保全処分の申立をなしたのであるが、その求める保全処分の内容及び理由は別紙1、2の通りである。

二  そこで、按ずるに、本案審判事件については、本件審判と同時に、「相手方は申立人に対し、婚姻費用の分担金として、金三八〇万円及び昭和五七年四月から毎月末日限り金四〇万円の割合による金員を、申立人方へ持参又は送金して支払え」との審判がなされ、その理由は、別紙3昭和五六年(家)第一二三二号婚姻費用分担事件審判書写中理由欄の通りであり、同所掲示の各資料に照らし、本案認容の蓋然性についての疎明は十分である。

しかしながら、右審判は確定によつてはじめて効力を生ずるものであるところ、本案審判手続における各資料(なかんずく、申立人からの上申書等)に照らすと、相手方が上記審判に対して即時抗告をなすことが十分予想され、これの確定までの間、申立人に対し婚姻費用の分担がなされなければ、申立人と二児の生活に対し、急迫の危険が生ずるおそれがあり、これを防止するために、相手方から申立人に対し、仮りに一定額の金銭の支払をなすよう命ずる必要がある。

即ち、前掲資料によれば、申立人に残された預金は既に費消され、生活の本拠たる家屋を処分することもできないところ、申立人には何らの収入もなく、現在親族の援助によつてわずかにその生活を維持している状態にあつて、その経済状態は逼迫の度が著しい。他方、相手方は、その収入から月額五〇万円程度を預金しているといいながら、申立人に対する一切の婚姻費用の分担を拒絶している。しかも、相手方は出奔に当り、幼い二児を申立人の手許に残し、その養育を申立人に託しているのであつて、右婚姻費用の分担の拒否は、申立人を経済的に窮地に追い込んだうえ、これによつて、いわゆる有責配偶者である相手方からの離婚請求に応じさせ、財産分与、慰藉料等の金銭支払に関する交渉を有利に取運ぼうとする意図に生ずるものであることが窺われる。そして、このまま、婚姻費用の分担が事実上遷延するならば、結局、申立人は自ら及び二児の生活のために、相手方のかかる不当な要求に屈服させられざるを得ない立場に追い込まれていることが明らかである。

三  そこで、当裁判所は、申立により、家事審判規則五一条、五二条の二に基づき、相手方に対し、婚姻費用の仮払いを命ずることとするが、その金額等に関しては、本案審判とは別個の考察を必要とする。

即ち、本案審判においては、申立人と相手方の資産、収入、その他一切の事情を考慮して、合目的見地に立つて裁量権を行使して婚姻費用の具体的な分担額を最終的に決定するものであるが、保全処分は、右審判の確定までの間に、関係人の生活が困難や危険に直面することによつて、上記本案審判自体の意味の失われることを防止するため、この間、暫定的に関係人間の権利義務関係を形成して権利者の保護をはかろうとするものである。

従つて、その内容は、右の目的に照らし必要最小限度のものに限られるべきものである。

しかして、上記の観点にたてば、仮処分によつて支払を命ずる婚姻費用の分担においては、いわゆる高額所得者における生活上のゆとりの如きは一応これを除外して考えるべきであつて、前項認定にかかる保全の必要性の具体的内容に照らしても、これを前記本案審判中第二項(ホ)認定にかかる一ヶ月の生活費の平均額金二五万五五〇〇円に臨時出費の一ヶ月平均三万四九〇〇円を加えた結果である一ヶ月約二九万円の範囲に限定するのが相当である。

また、申立人及び二児の生活が現在までまがりなりにも維持されており、早急に返済を要する債務等が生じている旨の疎明もない本件においては、一ヶ月以上過去に遡つて婚姻費用の分担を命ずることも、保全の必要性をはずれるものと云うべきである。

四  よつて、当裁判所は、申立人の求める保全処分の内容のうち、上記の限度でこれを認めることとし、相手方に対し、昭和五七年三月から毎月末日限り一ヶ月金二九万円の割合による金員の支払を命ずるのを相当と認め、申立人に保証をたてさせずして、主文のとおり審判する。

(家事審判官 小田八重子)

別紙1

求める保全処分

本件審判における婚姻費用分担金四〇万円の仮払いを相手方に命ずる仮処分の決定を求める。

保全処分を求める事由

(本案の申立てを相当とする事情及び緊急に保全処分を必要とする事情)

本案の申立ての事由は昭和五六年(家)第一二三二号事件および昭和五六年(家ロ)第五〇二号事件の申立理由をすべて援用し、さらに相手方の本件調停事件の調停の際の「審判が出てもあくまで抗告してでも争う」旨の発言等から見て、例え費用分担の審判が出てもさらに抗告して、審判が確定されないおそれがあり、また申立人の生活も昨年九月以来相手方の残して行つた貯金もなくなり、二人の子供を抱えて窮迫の状態となつているので、この際是非婚姻費用分担金の仮払いを受けて、最終的に審判の命ずる費用分担が確定するまでの申立人および子供達の生活を維持するため、本件仮処分の申請におよびました。

疎明書類はすべて昭和五六年(家)第一二三二号婚姻費用分担家事審判申立事件の疎明書類を援用する。

別紙2

保全処分を求める事由

(本案の申立てを相当とする事情及び緊急に保全処分を必要とする事情)

相手方は、申立人および二人の幼児を棄てて、愛人木下初子と家出をなし、三ヶ月近くその行方も判明せず、やつと探し出して申立人および二人の子供達の生活を維持するため婚姻費用分担請求の調停の申立を御庁に提出したが第一回の調停でこれに応ずる意思が全然なく、調停は不成立になる見込みが強く審判に回ると思われますが、同人は医師として現在○○町立病院に勤務して月収七〇万円位とのことですが、先日の調停に於ての同人の言動から見てもいつその地位を棄て行方をくらますかも知れないおそれがあり、また申立人に売買を頼んだ書置きをしながら(疎第四号証)申立人の知らぬ間に売り払つておる事実(報告書)、また預金が五〇〇万円位あるから当分申立人らが衣食に困る筈がないと申し立てているが事実は現在五〇万円余で約二ヶ月もすればすつかりなくなつてしまう現状(疎第三号証)から見て今の中に唯一の相手方の資産である本件不動産を差押えておかないと他日婚姻費用の負担を命ずる審判を得ても、その執行が不能となるおそれがありますので本申立に及びました。

別紙3〈省略〉

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